札差(ふださし) 両替商
八代将軍吉宗の頃には、すでに幕府の財政は破綻をきたしており、
旗本や御家人の家計も借金だらけというのは、
江戸時代の時代小説を読めば十分理解できます。
夏休みに 上田秀人の日雇い浪人生活録『金の価値』を読みました。
親の代からの浪人.諫山左馬介と江戸屈指の両替商 分銅屋仁左衛門が中心に
「革政の中心に米から金にすべて移行しようとする」田沼意次が絡むのですがその中にこんな会話が出てくる。
両替は大判を小判にするだけではない。小判を分金に、さらに銭に替える。
その逆もそうだ。 とはいえ、小判自体ほとんど流通していない。
商家が決済に遣う程度で、庶民はまず小判に縁はない。
また、買いものがほとんど町内で節季払いなのだ。
小銭さえあれば、日常生活はできる。
庶民と両替屋はほとんど接点を持っていなかった。
「両替だけじゃ、やっていけません」
分銅屋仁左衛門がはっきりと言った。
「そういうものなのか」
「はい、だからこそ金を貸すわけでございましてね」
理解できていない左馬介に、分銅屋仁左衛門が続けた。
「金貸しがまあ、本業でございますね」
「その割に取立てとか、あまり見ぬな」
佐馬介が首をかしげた。
「取り立てをするようでは、一流の金貸しじゃございません」
分銅屋仁左衛門が首を横に振った。
「お金を貸すことで利子を受け取る。それが金貸し、貸し方屋の仕事」
「ああ」
佐馬介が同意した。
「金貸しは客を選ぶところから始まります。夜逃げするような者に貸さないのは勿論、
さっさと返済を済ませるようなお方にも貸してはいけません」
「なぜだ。金を返してもらわねば困るだろう」
分銅屋仁左衛門の言葉に、佐馬介は困惑した。
「完済されては、利子を受け取れなくなりましょう。」
「・・・・・・・」
予想外の答えに、佐馬介は絶句した。
「元金を返せず、夜逃げするような客は下(げ)の下。そして要りような時だけ借りて、
すぐに返す客は下(げ)でございます。金貸しにとって上客とは、
元金を返すことなくずっと利息を払い続けてくれるお方」
「・・・・・むうう」
すさまじい内容に、佐馬介は唸った。
「もちろん、それだけの裏付けのあるお方でないと貸しません。当然、小口貸しは致しておりません」
「小口とは・・・・・」
おそるおそる佐馬介は訊いた。
「五百両以下のご融通は遠慮いただいておりまする」
「・・・・五百両」
佐馬介は目を剥いた。
五百両あれば、佐馬介なら孫子の代まで喰える。
どころか、微禄の御家人ではない目見え以上の旗本の株を買う事も出来る。・・・
P262より
江戸時代の武家は、金を持ち歩かなかった、さわらなかった。
銭は汚い、米石高で札差が年3回必要とする金を持って来てくれる。
金を見ることはなく、足らない場合は、札差が用だててくれる。
そんな経済の仕組みであったのですね。
正に武士階級から見れば、士農工商人は一番金を扱う下賤な人類だったのですね。
米石高経済から貨幣経済に合わせられない、
武家社会の憐れさが、表わされています。
借金に対する考え方、
ふと 現代でも銀行側がこんな台詞を云っているのではないでしょうか?
思わず考えてしまいました。
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