マサカの坂に備える経営対策 5話連続シリーズ
「借入金が返せなくなったら、どうなるのか?」①
ある日、訪問先への移動途中、羽田空港に着いてすぐ、
スマホに着信が入りました。
画面に出る相手の名前を見て、驚きました。
約10年前に訪問していた会社の社長だったのです。
中部地区で食品卸売業を営んでいた、三船物産(仮名)の三船社長です。
訪問終了後、電話で数回やりとりしたことはありました。
が、その後は年賀状や暑中見舞いのやりとりはあるものの、
長らく連絡をとることはなかったのです。
「はい!古山です。」
「先生たいへんご無沙汰しております。三船です。」
不思議なもので、聞きなれた声を耳にするだけで、
10年間の空白が一気に溶けてゆきます。
「いやぁ、あまりに久しぶりでびっくりしました。
変わらず元気なお声ですね!」
「元気にしております!」
「また急にどうされたんですか?」
単刀直入に聞いてみました。
「このあいだ、新聞広告で先生のお顔を拝見して、
久しぶりに電話してみようかな、と思ったんです。
実はあのあと、5年後くらいに商売やめたんですよ。」
「えっ!そうなんですか!」
「そうなんです。
先生方のおかげで在庫減らしたり、銀行交渉したりして、
あのときは改善したんですけど、
その後また、厳しくなっていったんです。」
卸売業は、在庫を多く抱えがちです。
しかも、三船物産の取引先は、仕入れる先も大企業、
売り先も多くが大企業、とその間にはさまれる卸売業でした。
買う側からも、売る側からも価格をたたかれます。
加えて、払いは早く、回収は遅い、
というのがその業界の悪しき商習慣であったため、
その改善は、10年前でも容易ではなかったのです。
「倒産したんですか!」
「倒産ではないんです。会社は存在しているんですけど、
もう何も事業をやってないだけです。幽霊会社です。
結局、資金繰りがにっちもさっちもいかなくなったんです。」
「後継者の長男と次男はどうされたんですか?」
「ふたりとも別々に、小さい事業をやってますわ。」
「で、三船社長は今、どうされてるんですか?」
「近所の物流会社で雇ってもらって仕事してますよ。」
「しかし、事業をやめた、といっても、
借入金が10年前でたしか、20億円くらいあったでしょ。」
「ありました。」
「あれはどうなったんですか?
個人保証も担保もされていたでしょ?」
「そうなんですよ。
今もぼちぼち返してますけど、
あともう、2千万円ほどでなんとか完済です。」
「えぇ!そうなんですか!!」
事業をやめて、残った20億円の借入金がどうなり、
どのような経緯で、
返済残高がわずか5年で2千万円程度にまで縮小したのか。
そのことへの興味がふつふつと湧き出し、
改めて別途、久しぶりに三船元社長にお会いすることにしたのです。
お会いした三船社長から聞く内容には、
マサカの坂に備える教訓となる事実が、
盛りだくさんだったのです。
(続く…)
(古山喜章)
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