5話連続シリーズ「メインバンクを切り替えろ!」⑤
⑤これぞ真実の“倍返し!”です
「関東中央銀行に26億円を振り込む、エックスデーを決めましょうか。」
牧野専務の掛け声のもと、いよいよ、
関東中央銀行をメインバンクの座から引きずり下ろす、
作戦決行日を決めるときがきました。
「来月の15日に実行で、よろしいでしょうか?」
居酒屋での密談の場で、
牧野専務は4人の若手銀行マンに問いかけました。
「了解いたしました。よろしくお願いいたします。」
全員一致で決まりました。
その日の朝イチで、各4銀行が牧野建材の口座に、
新たな融資額を入金します。合計で26億円です。
そして、あることを確認したあと、
その全額を、関東中央銀行の口座に振り込み、一気に返済するのです。
「返金前に、なにを確認するんですか?」
牧野専務に伺いました。
「関東中央銀行からの入金です。」
「どういうことですか?」
「いま、関東中央銀行の本店が建て替え工事をしていて、
その工事の建材に、うちの商品を納品しているんです。
その最後の入金が、来月の15日なんです。」
「なるほど。その入金を確認したあと、26億円を返金するんですね。」
「そうです。新しい本店ビルの柱の数本は、
うちから吸い取った高金利でまかなっているんですから。
それくらいしいないと、社長も私も気がすみません。」
ここまでくれば、たいした執念です。
集めた26億円をただ返すのではなく、いかにすれば、
自分たちが経験した悔しい思いをさらに上回る、
瞬時に凍りつく恐怖と後悔に溺れさせることができるのか、
を考えて決めたのが、その日だったのです。
銀行本店建て替えへの建材販売の売掛金回収完了次第、返金し、
自分たちをいじめた銀行担当者たちを青ざめさせる、
というシナリオだったのです。
まさに、これぞ真実の“倍がえし!”なのです。
そして滞りなく、
打倒!関東中央銀行5人組の作戦が実行されました。
当然、役員を筆頭に、関東中央銀行の面々が、
血相を変えて牧野建材の社長・専務のもとへ飛んできました。
「うちが何をしたというんですか!」
しかし、社長も専務も、これまでの交渉やお願いに対する
関東中央銀行の態度を指摘し、
一部は交渉時の会話を録音した音声まで、その場で流したのです。
そこには、おどしまがいの言葉も残されていたのです。
担当者たちは、万事休すです。
その後、担当者はみな、へき地の支店や取引先へと、
異動や出向で、いなくなりました。いわゆる、左遷です。
一方、密談に集まった若手銀行マン4人は、
それぞれの銀行の出世街道にのり、みな、挨拶にやってきました。
「牧野専務のおかげです。
銀行員になって、こんな楽しいことはなかったです。
この地域を離れますが、また一緒に仕事ができれば光栄です。」
一様に、そのような挨拶をして、それぞれの赴任場所へと、
去っていったのです。
社員の給与振込口座や各種入出金に使うメインの口座も、
関東中央銀行から、変更となりました。
密談の中、全員が納得した形で、
集まった4行のうちの一つに決まったのです。
「メインバンクを変えるなんて!とんでもない!」
と訴えた古参経理担当者も、もはや何も言いませんでした。
しかし二年ほど時を経過したあと、後継者たちにこう言いました。
「お前たちのやったことは正しかった。
いろいろキツイことを言って、すまなかった。」
その後の決算書の改善具合を見て、その言葉が出てきたのです。
「自分たちでは、こんな決算書にはできなかった。
よくやってくれた。」
素直にわびて感謝を示してくれたその言葉で、
ながらく抱えていたお互いのわだかまりは、消えてなくなったのです。
いかがでしたでしょうか。
メインバンクは変えれるのです。
というよりも、今やメインバンクといっても、
他行となんら違いはないのです。
借入額が大きかったり、中心的な入出金の口座に使っている、
という違いくらいです。
時代遅れのメインバンク面する銀行があれば、
ためらうことなく、本当に長くつきあえそうな他の銀行に、
変えるべきなのです。
その決断のためには、社長や専務といった
中心的な経営幹部が、銀行を取り巻く現状の知識を蓄え、
よき相談相手を見出し、果敢に取り組んでほしいのです。
(終わり)
(古山喜章)
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