上手に清算する方法①
2年前の春、とある会社から1通の手紙を受け取りました。
手紙の内容は、以下のとおりでした。
株式会社薩摩金属の代表取締役の西郷と申します。
当社は、鉄鋼原料(鉄スクラップ、非鉄スクラップ)を主に営業してきた会社ですが、
4年前から徐々に手仕舞いをはじめ、現在に至っております。
いまから3年後の3月末日をもって会社の土地、建物を売却し、会社を清算するつもりです。その時に、手元資金と土地の売却益で役員退職金を出し、少しでも税負担を軽くすることと、1株あたりの評価を下げたいと思っております
(現在、当社には借入金などの負債に相当するものはありません)。
ただ退職金を出すにしても退職金計算式(最適月額報酬×在任年数×功績倍率)で計算するとかなり高額な金額になってしまいます
(私の4年前までの給料は、月額200万円、役員在任年数は30年、功績倍率3で計算しました。現在は30万円です)。
当社の2014年までの売上金額平均は、3億5千万円くらいです。
それ以降は、家賃収入が年間15百万円になっています。
5年前までは黒字決算、それ以降は、仕事を止めたため赤字決算です。
手元資金と土地売却資金で、私のほかに居る3人の役員に、この計算式に当てはめても支払えるだけの余裕はあります。
果たしてこの退職金が、営業を止めている今の状態で、適正なのか、判断ができないでおります。
また、退職金の支給以外に会社の株の評価を下げる方法があるのか、宜しくご指導のほどお願い申し上げます。
株式会社薩摩金属
代表取締役 西郷守
早速、西郷社長に電話をして、都内の事務所でお会いすることにしました。
当日、お見えになったのは、西郷社長と大隈専務でした
。2人とも年齢は、70歳前後でしょう。改めて、相談に至る経緯を聞いてみると、次のような内容でした。
薩摩金属は、創業者の時代には、製罐メーカーとの取引に財閥系の商社が介在していたため、価格交渉や販売先という面で、大きな制約を受けていました。
「これではいつまでたっても利益が生まれない。」ということで、営業のやり手だった大隈専務は、このメーカーのキーマンの親族の葬儀に参列したことをきっかけに、キーマンと距離を縮めます。商社経由の取引は、当該メーカーにとっても取引価格の面で不利であること等を説明し、2年後には、この商社を排除することに成功します。
薩摩金属は、これを契機にメーカーとの距離を大きく縮め、取引先開拓や価格決定権の裁量度合いが大きく増し、その後の成長につながりました。
大隈専務は、その後も、このメーカーのキーマン(後に役員)と個人的な交流を保ちつつ、会社としても、良好な関係を築き上げため、しばらくの間、他社に付け入るスキを与えず、安定的な取引量、利益水準を計上したのです。
ところが、このキーマンの役員退任を契機に、徐々に両社の取引関係の緊密さが失われていきます。そして今から4年前に、「薩摩金属さん、これからは、全ての取引を相見積もりにさせてもらうよ。」とメーカーからお達しがあったのです。西郷社長、大隈専務とも自分の息子あるいは、第三者に会社を引き継がせようとは思っておらず、引き際を探っていたところでした。まさに渡りに船で、取引中止、撤退の口実ができたのです。
「それならば、大変残念ではありますが、私たちは引かせていただきます。」と伝えて、取引先に負担や迷惑をかけないよう事業を段階的に縮小し、手仕舞いの準備に入ったのです。
(福岡雄吉郎)
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