上手に会社を清算する法⑦
さて、最後に残るのが、株式の処理です。この株主の整理は、ちょっとやっかいです。昔に設立された会社ですので、当初の設立時の株主は、7名必要でした。社長と専務のお父さんで2人、残りは、当時の従業員5名が株主でした。で、今の株主名簿はどうなっているか?Aさんが、20%残りは、4名が1%ずつ、合計4%を保有しています。つまり、現在の社長、専務で76%残りの株主で24%という株主構成です。
「社長、Aさんっていまどういう状況ですか?」「あぁ、Aさんですか。Aさんというのは、設立時の幹部の子供です。実は、当社は、当初私の父と専務の父、それからAさんの父の3名が中心となって経営したのです。Aさんはすでに亡くなっているので、20%の株式は、子供に相続されています。それがAさんになるのです。1年に2回、中元、歳暮のときは、挨拶がてら顔を合わせています。でも、Aさん自身は、わが社には全く関係なく、いまは、工場に勤めています。」
「そうですか、わかりました。まずは、Aさんの株式を会社で買うようにしましょう。」
少数株主といえども、20%の株式を保有するAさんの株式買取の話です。
「Aさんから株式を買い取ってしまいましょう。」
「そのほうがいいですか?」
「はい、そのほうがいいです。将来的に、会社は解散します。そのときに、債権債務を整理します。つまり、資産のうち現金に換えられるものは換えて、支払関係も整理するわけです。もし、最後に現金が余った場合には、言ってみれば、それが残余財産になります。
余った財産は、株主に分配されることになります。その分配比率は、当然、持株比率になります。
いま、Aさんは、20%持っていますが、これを会社が買い取れば、当然このAさんの持株は消えます。つまり、お2人の取り分が多くなる、というわけです。」
「なるほど、そういうことですか。ありがとうございます。それでは、Aさんから株式を買い取るようにします。ただ、うちの顧問税理士が、Aさんから買取る場合は、原則的な高い株価でないといけない、と言っています。本当でしょうか?」
「えっ?!そんなことはありませんよ。税理士さんは何か勘違いしているんじゃないでしょうか?社長や専務が、Aさんから買取る場合は確かに高いです。でも、今回は会社が金庫株、つまり自分で自社株式を買うんです。この場合は、例外的な安い株価で計算すればOKですよ。」
しばらくして、社長から連絡がありました。
「お騒がせしてすみません。よくよく調べてもらったら、税理士さんの勘違いでした。早速買い取りたいのですが、いきなりどう話を切り出せばよいか・・・ちょっと上手く話す自信がないですね。」
「ではAさんから株式を買い取るにあたっての提案文書を書きましょう。」
Aさんとの関係は、良好です。ただし、いざ株式を買い取らせてほしい、というのは、当事者からしたら色々と考えてしまうものです。私は、社長に伝えるべきポイントを挙げました。
①経営環境の変化に伴って、
4年ほど前から事業を縮小せざるを得ない状況になっていること
②長年株式を保有してもらったことの感謝
③買取金額をケチらないこと
Aさんの父親は、当初1株500円で出資しており、Aさんには長年に亘りご支援いただいたことを考慮して、出資額の2倍である1株1,000円での買取りを提案しました。
④今後については不透明な状況にあり、現在であれば、上記金額での買取りができること
⑤今回の株式売却に際して、所得税が発生する。所得税法上は、今回の会社からの支払は、Aさんへの配当金扱いとなり、それに伴い支払金額に応じた所得税を源泉徴収する必要があること
今回の場合は、この5つです。真実かどうか、というのはあまり関係なく、とにかく誠意を見せて、気持ちよく売ってもらうことです。もともと1株500円なのに、1000円で買い取るのですか?とケチる方がいますが、ここはケチらないようにしてほしいです。
「損して得とれ」少数株主の買取は、まさにこの言葉が当てはまるのです。
Aさんには誠意を尽くして対応をし、丁寧な手紙も差し出した結果、快く株式売却に賛成してくれました。
(福岡雄吉郎)
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