上手に会社を清算する法⑧
残すは、4名の少数株主です。それぞれ1%ずつ、合計で4%保有しています。困ったことに、この1%の株主、いまどのようになっているのか?誰も把握していません。
「社長、この株主名簿に載っている株主の方、これは先代の頃の従業員の方ですよね。この方って、いまご存命なんですか??」
「いやぁ・・・わかりませんが、おそらく鬼籍に入っているでしょうね。その場合、この株式は相続されているのでしょうか。」
「いや、そもそも株主ご本人に、株主としての自覚はなかったのでしょう。配当をしていたわけではないですし。だから、当然、家族の方も、お父さんが当社の株式を持っていた、という認識もないでしょう。だから、家族の方からすれば、“当社の株主である”という認識すら、持っていないでしょう。」
薩摩金属とおなじような状況にある会社は、世の中に結構あると思います。
「社長、これは法的な問題でもあります。弁護士さんは、どうやって言っていますか?」
「はい。弁護士は、とりあえず家族に連絡して、権利関係を説明する必要があるだろう、と。ただ、昔の株主の家族がいまどこにいるのか、皆目見当もつかないのです。それに、もとはといえば、その株主も自分でお金を出してないはずなのですよ。」
「いかにも、弁護士さんらしい教科書的な回答ですね。こちらは悠長な時間もかけてられません。実務的な対応を考えましょう。」
4名の少数株主の整理をしないといけません。それぞれ1%ずつ、合計で4%保有しています。ただし、この4名はおそらく亡くなっており、その家族も、この会社の株式を持っている、ということは知りません。
「社長、とりあえず、昔の出資に関係する書類って、残っていませんか?書庫とか、金庫とか、調べられるだけ調べてみてください」
社長は、几帳面な方で、昔の書類が入ったファイルをすぐさま見つけてきました。
「あっ、これって昔の出資に関する書類ですよ。」見ると、株主名義で、株式申込書と念書が出てきたのです。
念書には、次のように買いてありました
私が所有する貴社株式について、退職するときは私が、また死亡したときには、相続人が直ちに貴社に当該株式を額面金額にて売り渡します。
「へぇ、よくこんな念書があったんですねぇ。」社長もびっくりしていました。
これはこれで有効は有効です。ただし、だからといって、今から本人もしくは家族を見つけると、結構な時間がかかるでしょう。正直、かなり面倒な作業です。
「こちらから、わざわざ行って、家族が見つかったところで、“そんなのは知らない”とか、“無効だ”とか、言われて、ストレスを抱えるのもご免です。つまりは、寝た子が起きないでしょうか?」心配性の社長が、不安そうな顔をしています。
清算まであまり時間がありません。
「やむを得ないので、今から話す方法でいきましょう。」4名の少数株主の整理をしないといけません。それぞれ1%ずつ、合計で4%保有しています。ただし、この4名はおそらく亡くなっており、その家族も、この会社の株式を持っている、ということは知りません。
これから解散するにあたっては、次のステップが発生します。
①株主総会の特別決議
議決権の3分の2以上の賛成があれば、可決できます。
②残余財産の分配
解散決議をとったあとで、資産を現金に換えて、債務を払って、最後は、現金が残るだけの状態にします。その後、その現金を、各株主に分配します。
この①②は避けて通れません。
まず、①ですが、すでに社長、専務で3分の2以上の議決権は持っていますので、ここは問題なく可決できます。次に②です。本来は、4名の少数株主にも現金を払わなければいけませんが、行方が分かりません。
「行方が分かりませんが、とりあえず、この4名が株主のままでいるとして、分配したことにするのはどうでしょうか?」社長から質問があります。
「いえ、分配したことにするのは問題がありますこの分配金は、配当金と同じ扱いで源泉所得税がかかります。税務署にも源泉に関する書類を提出する必要があります。
となると、仮に既に亡くなっている株主に分配したら、税務署も“なんで?”となります。
しかも、今回は、少数株主と言っても、1人あたりの分配金が100万円を超えてきます。
もう一工夫しましょう。」
この株式の取扱いは、最終的には、次のようにしました。
株主の行方が現実的に追えないこと、また、遠い昔に各株主との間で、「退職時に会社が買い取る」という株式に関する覚書を交わしていたことから、解散時の株主は、社長、専務の2名のみとして処理する。便宜上、そうせざるを得なかった、ということにしました。
少数株主分は、社長・専務が上乗せして源泉所得税を支払います。つまり、税金をごまかすというわけではないのです。ただし、将来、万が一、この少数株主から
連絡があった場合のことも考えて、既存株主への分配金は金庫に保管する。つまり、いつでも1%の株式に見合う対価は、用意しておくということです。
「これでいきましょう。行くしかないです。」ということで決着をさせたのです。
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