本業以外の出資に気をつけなさい③
低金利が続く昨今、現預金に余裕があれば、
「何か利回りのいい儲け話しはないだろうか」
と考えるのが経営者です。しかし、
よくわからぬ事業に、安易に高額の出資をすると、
あとから痛い目に会うのです。
③どう考えても回復の見込みなし
スタートアップ会社へ1億円の投資をしていた、
栄工業(仮名)の出資金は、
コロナ禍によるインバウンド消費の蒸発で、
一気に苦境へと追いやられました。
出資先の会社は存在するものの、
ホームページはまったく更新もされず、
“ただいま全てのサービスを停止しております。”
と表示されるだけです。
「その会社と、連絡はとれるんですか?」
栄社長(仮名)に尋ねました。
「連絡は取れます。
決算書を見れば、資金はほぼ残っておらず、時間の問題ですね。
インバウンド需要が戻るまでは、もちそうにありません。」
コロナ禍突入後、売上高はほぼずっとゼロなのです。
財務状況は一気に悪化し、出資していた2社とも、
一年ほどで債務超過に陥っていたのです。
「これはどう考えても、回復の見込みはないですね…。
税理士先生からは、この決算書だと価値はゼロ円ですね、
て言われました。」
栄社長は万事休す、といった表情でため息を漏らしました。
確かに、この出資先からの出資金回収は、もはや見込めません。
しかし幸いに、栄工業の本業はかなり順調です。
しかも栄工業には、ほとんど稼働していない子会社がありました。
それも、グループ法人税制の対象外となる会社でした。
なので、栄社長に言いました。
「その出資株式を、子会社に売って売却損を出しましょうか?
そうすれば、損失の約半分は節税で取り戻せますよ。」
「そんなことできるんですか?」
「先方と連絡がとれて、その先方がOKなら、できますよ。
うちの子会社を銀行のサービサーみたいに使えばいいんですよ。」
「サービサー、ですか?」
サービサーというのは、不良債権の回収代行会社です。
銀行は、回収不能とみた債権を、サービサー会社に売却します。
売却額は、債権金額の約1割が相場です。
サービサー会社は1割で買って、それ以上回収できれば、
その分が儲けになる、という仕組みです。
「わかりました。一度先方の社長に連絡をとってみます。」
となり、数日後、
「売ってもいい、と2社とも返事をいただきました!」
と、栄社長の声が少し明るくなりました。
株式譲渡承認請求書を作成し、
不良出資株式を子会社へ売却する手続きを進めたのです。
売却額は1株1円です。
「1円でいいんですか?」
「決算書で評価すればゼロ円ですから、1円でいいんですよ。」
会社からの出資は、これで処理方法が決まりました。
「あとまだ、社長個人の処理が残っていますよね。」
そうです。社長個人で出資した1億円の処理が、残っていたのです。
続く…。
(古山喜章)
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