株式はなぜ、思わぬ方向に分散してしまうのか⑤
“分散した株式をどうすればよいのか…。”
という悩みをお持ちの経営者が、ICOには数多く相談に来られます。
その際、買い戻す前にまず、
なぜそうなったのか、をお聞きします。
そこには、さまざまな理由が現れてくるのです。
⑤言われるがままに捺印してしまっていたから
株式が誰かに譲渡されるには、多くの場合、
会社は取締役会で譲渡承認をした議事録を残します。
また、身内間での譲渡に関わる譲渡なら、
譲渡契約書やそのコピーを会社が保管しています。
ところが、
「知らない間に株式が他の人に一部、動いています!」
という、信じられないケースが、実際にあったのです。
「知らない間に、といっても、譲渡承認の議事録とか、
あるでしょう?」と社長に聞くと、
「いやあ、全く記憶にないですね。
別表2の同族判定の資料を見たら、
覚えのない人が株主に入っていたので、びっくりしたんです。」
と言うのです。
「何か残っているんじゃないですか?よく探してみてください。」
とその社長にお願いしました。
数日後、「資料がありました!」との連絡が入り、
コピーを送ってもらいました。
見て驚きました。
何の覚えもない、と言いながら、署名も捺印も入った、
取締役会議事録と譲渡契約書のコピーが送られてきたのです。
「社長!譲渡承認の議事録にも契約書にも、
署名も捺印もしているじゃないですか!」と言うと、
「それが、まったく記憶にないんですよ。
だいたい、取締役会の議事録なんて、言われるがままに、
署名も捺印もしていますから、中味なんてよく見ていないんです。」
とおっしゃるのです。
まさに、多くの中小企業の実態が、ここにあるのです。
そのケースは、相続対策の一環として、
顧問税理士事務所が動き、議事録を作成して、
社長に署名・捺印をもらっていたのです。
「信用している人から言われたことなので、
中身までは十分に見ていなかったです。」
とのことだったのです。
取締役会や株主総会を、
現実に開催している中小企業は少ないです。
それでも、議事録の内容くらいはチェックし、確認すべきです。
中味がよくわからないのなら、議事録を作成した人物に、
説明を求めるべきなのです。
その社長は、
「自分は株式のことなど、あんまり気にもせず、
人任せにしてきました。失礼しました。
今後はしっかりとチェックします。」
とのことだったのです。
あまりよく理解せず、議事録に署名・捺印をして、
いつの間にか株式が思わぬ人の元に渡っていると、
事と次第によっては大変な事態になるのです。
今回の事例の場合は、その株主からスムーズに買い戻せました。
が、そんなにすんなりゆかない場合も、絶対にあるのです。
社長の立場であれば、どのような書類も、
内容を理解・確認した上で、捺印してほしいのです。
(古山喜章)
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