売上第一主義経営に陥ってはならないという事です。
「それでは売上を第一に考えない、すなわちどうしろと言うことですか! 」
との声が聞こえそうですね。
無理に売りに行かないのです。お客様が買いに来ていただけるような会社にするんです。
社長が営業畑出身の会社はすぐに分かります。
「売上だ! 売上だ!」大声でカツを入れてくるからです。
「売れない不況の時こそ営業力の見せ所だ! 営業社員は今こそ、根性をもって足で稼げ!」とのたまっているのです。
私もそんな会社に居たことがありますが、
『顧客の好まない、売れない不良在庫』を売ってこいと言っても
嘘を言ってお客を騙すか、売れました と言って売れてもいないのに売上伝票を出して嘘を書くぐらいしかなく、いくら営業社員を投入しても退職してゆくばかりで、戦力体制が組めないのです。
売れない商品を売る努力をすると
・営業人材、人的販売効率が落ちる
・粗利益率が下がる
・不良売掛金が増加する
・詐欺に引っ掛かり赤字になる
・会社のイメージが低下する
・販売経費が増える
山陽道の中核都市で建設資材の中小商社であるビサン工業設備(仮称)の谷村友治社長(仮称)45歳は、32歳の時にそれまでトップセールスマンとして活躍していましたが、メーカーの支援もあって、独立開業したのです。独立開業からの10年間は、瀬戸大橋工事、山陽新幹線工事等で順風満帆の業績を示し、会社の規模も格段に伸びたのです。
顧問先の社長の紹介もあって、ビサン工業設備営業社員の教育指導を受けたのです。谷村社長にお会いした時の第一印象は、素晴らしく、一気に私はファンになるぐらいでした。仕立ての良い背広とネクタイ、言葉遣いも私をボーとさせるぐらい上手でこちらを持ち上げてくれる。招待された和食の料亭の食事の内容も美味しいものばかりでした。そして、谷村社長の日々の行動はまさに東奔西走のエネルギッシュな活動量で驚かされっぱなしでした。
しかし、営業社員教育が始まってみると社長は多忙を理由に一度も参加せず、妻の弟である佐々木常務が責任者として参加。社長と比べて覇気がなく、業績も市場需要が落ちて芳しくないことが伝わってきました。
そこで、会社の数値を見たいと思っても経理部長は参加せず、逃げるように資料の提出も私たち講師陣に示してもらえることはありませんでした。
そして、6か月もたたないうちになんと ビサン工業は倒産してしまったのです。
「手形が落ちん?」 連絡のあった佐々木常務に聞くと
「融通手形をやっていていまして、先の手形が不渡りになった」と、倒産理由を言うのです。
「そんなことをやっていたのか? 常務もその事を知らず?
だから経理部長が出てこなかったのか! 一体 融通の相手はどこの会社や?」
「高松の呉服販売会社の美装服飾(仮称)! です」。
「えっ あの有名な会社 原 敏弘(仮称)社長のか?」
「先生! ご存知の社長ですか?」
美装服飾も各地の有名ホテルを借りて展示即売をする会社で、店を持たず、安い価格で販売し、営業社員にかなりドギツいノルマと報酬の売り方で有名でした。これまたビサンの谷村社長とそっくりな、それゆけ!ドンドンの原社長で、経済誌に取り上げられていた会社です。この業界も和装離れの時代背景があり、衰退がはじまっていたのです。
大量にガッツだけの営業社員を集め、販売報酬を高くした経営は、モラルの荒廃を招き,良心のある社員は退職し、会社の士気(モラール)は衰えていったのです。
売れない時に販売を伸ばしている会社は目立ちますが、裏に回れば真の経営をしていないボロボロの会社になっていたのです。
売上が上がればいいのではありません。しっかりした粗利益を稼ぎ、労働生産性を確保し、販売経費、金融対策を考えた経営をしなくてはなりません。売上を上げれば利益が出る、経営はそんな簡単なものではありません。
経営原理に沿った経営をしなくてはならないのです。
(井上和弘)
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