粉飾決算をしてはいけません
長い付き合いの友人ともいえる山川太治(仮名)君が、疲労感を体中に表わせて、私の事務所に相談に見えた。
30代に始めた建設土木業が波に乗り、50代の初めは景気の良い噂を聞いていたが、最近の不況の下、あまりうまくいっていないことは聞いていた。
「何の相談ですか?」
「実は 得意先のA社が一年前に倒産して、もらっていた受取手形が不渡りとなり資金繰りに窮してしまって、困っているんだ!」
決算書のB/Sを見ると売掛金の多さ、在庫(未成工事支出金)の多さから見て私にピンとくるものがありました。
「この決算書 粉飾しているな~」
「えっ すぐ見てわかるんかい?」
「何期前からやっているんだい?この期だけではないね~」
「井上さん、やはりプロだな~。実はお恥ずかしいが粉飾してあるんだ・・・」
「銀行の上席の人間が見たらわかるよ。運転資金はもうこれ以上、出さないと言ってきたかい?」
ますます彼の顔に疲労感が漂う・・・
「なんでやってはいけない粉飾決算など、してしまうんだ?」
「井上! お前さんにはわからないだろうが公共事業を受ける俺たちは国土交通省に経営審査資料を届けて、ランク付けをしてもらって仕事をもらえるんだ!赤字だったらランクが下がり、仕事が取れなくなってしまうんだよ」
「お前にはわからない?私は何十年と経営コンサルタントをしてきているんだよ。経審がわからないでは建設業者の相談は受けられないよ!馬鹿にするな!おれに相談なんかするな!」
友達と思って思わず言ってしまった!
「お前 赤字になったら経審の点数が悪くなるって言ったよな・・・」
「うん!」たちまち声が小さくなった。
「赤字ってのは利益が赤字っていうことだが、何利益が赤字なんだ! 経審が見る利益は 何利益だ! 経審は毎年 あるのか?」
「・・・・・・・・」答えられないのです。
実は、経審では 次の8項目を審査されます。
1.総支払利息率 借入金が多くないか
2.負債回転期間 何年で返済できるか
3.総資本売上総利益 ROA
4.売上げ高経常利益 利益が出ているか
5.自己資本対固定資産比率 固定資産を自己資金でまかなえているか
6.自己資本比率 安定性
7.営業キャッシュフロー 使える現金が生まれているか
8.利益剰余金(純資産合計) 自己資本は充分あるのか
利益は経常利益です。税引き後純利益ではありません。
山川君はこの3年、粉飾をして税前利益が赤字にもかかわらず、黒字にして税金を支払っていたのです。
不渡り手形をもらっても、特別損失で落として営業利益、経常利益は黒字にして税引前利益を赤字にすればいいものを無知なる故にこの様な粉飾をして経審におびえ、銀行におびえ、粉飾決算書作りに多くのエネルギーを使ってやっていたのです。
銀行は営業利益を重視しているのに、わざわざ粉飾することはないのです。銀行は含み損を出す行為(オフバランス)を歓迎してくれるのですが、無知なる上にアホな行動をとるのですね。
(井上和弘)
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