5話連続シリーズ「種類株式活用の難関を超えよ!」⑤
⑤ちょっとややこしい株主は現金買取りで解決せよ
近畿地区で事業を続ける中小企業、株式会社関西特殊整備(仮名)
において、事業承継対策のひとつとして、
種類株式を活用することにしました。
しかしそのためには、全株主の同意が必要なのです。
阿図仮市、関西ネクスト銀行の同意を得て、
残る課題は、元社員の奥様に対する、株主対策だったのです。
約5%の議決権を持っておられました。
その元社員は、かつての営業部長、森永氏(仮名)でした。
会社にとっては、今の地位を築き上げてゆく真っ只中での、
功労者だったのです。
嘱託社員を経て退職し、その数年後に惜しくも亡くなられたのです。
「退職の時点で株を買い取っていなかったんですか?」
山中社長にお聞きしました。
「そうなんですよ。そのときに買い戻していれば、
今みたいなことはなかったんですが。
なぜかそのままになっていたんです。
で、当人が亡くなり、奥様が株式を相続されたんです。」
こういうケースを、結構お聞きするのです。
奥様が株式を相続されると、これは少しやっかいです。
単なる財産ではなく、形見の品、のような存在になり、
買戻しをお願いしても、手放そうとしなくなることがあるのです。
「お父さんが残してくれたものを、売るなんてとんでもない!」
となるパターンがあるのです。
かといって、種類株式の同意書をもらい、
株主として残ってもらっても、ちょっとややこしい株主となります。
「できれば森永さんの株式は買い戻したいです。」
これが山中社長のご希望でしたし、
私たちもそのほうがいいと判断しました。
あとは、どう買い戻すかです。
同族の方ではありませんので、税法に基づけば、
額面での買戻しが可能です。
しかしこのような場合、
少なくとも額面の5倍くらいは提示しないと、
すんなり売ってくれることはないのです。
それはこれまでの経験上、そう実感しているのです。
森永元社員の奥様とは、山中会長が既知の間柄でした。
「森永さんには、私が買い取りの話しをしますよ。」
面識のない社長が伺うより、古くから面識のある会長が
交渉したほうが、うまく事が進みそうでした。
こんなとき、誰が交渉に行くのかも、大切なことなのです。
続けて山中会長が言いました。
「たぶん、森永さんの奥さんなら、頼めば売ってくれますよ。
一応、額面の5倍くらいで契約書を交わして、
それとは別に現金で袖の下をしっかり用意しますから。」
こんなときは現金が一番効果的だ、と山中会長は心得ていたのです。
で、森永元社員の奥様から株をしっかりと買い取ってきたのです。
「ところで袖の下はどれくらい出されたんですか?」
その後お会いした折、山中会長にたずねました。
「帯付きで5束出してお願いしたら、すぐにOKしてくれましたよ。」
まさに、現金の魔力を感じる瞬間です。
山中社長も驚き、
「あの奥様は何を言われても売らないんじゃないか、
と心配していたけれど…。いやぁ、わかりませんね。
やっぱりお金をケチらないことですね。」
これで懸念していた株主の整理や同意の取り付けを終え、
全株主の同意書の捺印を得て定款変更し、
関西特殊整備は種類株式を無事に導入することができたのです。
その後、山中社長はわずかな数の普通株式を会長から買い取り、
議決権の上で支配権を得たのです。
併せて山中会長は種類株式を、役員クラスの従業員数名へ譲渡しました。
会長の手元から、株式財産は無くなったのです。
山中社長は言いました。
「株式はやはり分散していると大変ですね。
身をもって実感しました。
それに、こういうときには、種類株式の活用は絶大ですね。
先生方にお会いしなかったら、こんな方法での解決はムリでしたよ。」
その言葉を聞いて、私もようやく、ほっとできたのです。
(古山喜章)
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